金属とは何か
金属とは、「常温ではほとんどが固体であり、光沢をもち、電気や熱を伝えやすく、丈夫でしかも外部の力によって引き延ばされやすい性質があり、加工成形しやすいもの」というのが一般的な定義である。漠然としたイメージに映るかもしれない。しかし、これらは原子中での電子の動きを反映してもたらされる性質で、それが金属らしさになって現れるのである。
そこでまず、原子の世界から金属元素の構造を簡単に見ていき、その秘密にせまることにしよう。

原子の構造と金属
すべての原子は、陽子と中性子という2種類の核子からなる原子核と電子という素粒子の組み合わせでできている。正の電荷をもつ陽子と電荷ゼロの中性子は中心となる原子核をつくる。その周りを負の電荷をもつ電子が回っている。1個の陽子と1個の電子がもつ電荷の絶対値は基本的に同じであるため、それぞれ1個ずつで釣り合うことになる。このとき、電子はむやみやたらと原子核の周りを回っているのではない。そこには一定の規則性があるのだ。原子核を中心に電子が回ることができる軌道はすべて決まっている。この軌道は電子殻と呼ばれ、原子核を中心にいくつかの段階に分かれており、それぞれの殻ごとに電子が存在できる数が決まっている。
原子核からいちばん近い殻はK穀と呼ばれ、2個まで電子を取り入れることができる。そのすぐ外側のL穀には8個の電子、その外のM殻は18個まで電子を取り込む。つまり原子核からn番目の殻が取り込める電子の数は、2×n2で表すことができる。このそれぞれの殻は、軌道上の電子が一杯になると電荷がつりあっていなくても非常に安定する。周期表でいちばん右の0族のヘリウムネオンなどがほかの物質と化合したりしないで安定なのは、それぞれK殻、L穀が電子で一杯になっているためである。そして安定していない原子も、できるだけ安定な状態になろうとする。そのためには最外殻に不足している電子を取り込むか、逆に余った電子を放出すればいい。不足している電子が数個であれば取り込んだほうがいいし最外殻にわずかしか電子がなければ放出したほうがいい。金属はすべて後者である。つまり金属は、最外殻の電子が活発で離れやすい状態にある原子であるといえる。それはまた陽イオンになりやすいということである。


周期表で見る金属
元素を原子中の電子の数順に並べていく(この順番を原子番号という)と、最外殻の電子数の同じようなものが繰り返し出てきて、同じような化学的性質をもった元素が周期的に現れる。これを表にしたものが、元素の周期表である。この周期表で見た場合、原子番号5番のホウ素と85番のアスタチンを斜めに結んだ線の左側が金属である。境界線とその周りに含まれる一部の元素は半金属と呼ばれ、自由に動き回れる電子をもつが、自由に動き回れない電子も原子どうしの結合部分に残ってしまい、電気を金属と半導体の中間くらいの程度で伝えるという、金属と似た傾向をもつ元素もある。
こうやって見ると、金属元素は極めて多く、元素全体の6割以上を占めることが分かる。

金属元素が「多い」わけ
原子番号はすなわち陽子の数でもある。原子番号は陽子の数の順番で並んでいる。つまり原子番号が進むにつれて、電子の数も増えていく。電子は1個ずつ順番に増えていくことになるのだが、ある時点になると最外殻の電子が許容総数の半数を超えることになるはずだ。そうなると電子を取り込んで安定したがる性質が出てくると思われるだろう。ところが、M穀以降の電子の位置には、変わった動きがある。電子が入るはずのスペースをすべて埋めてしまう前に、もう1つ外側の軌道に電子が移ってしまうのである。つまり、M殻には18個の電子を取り込むことができるが、それがいっばいになる前に、N殻に1〜2個の電子が存在するようになってしまうのである。例えばチタンのM穀に電子は10個しかないが、N穀にすでに2個の電子をもっている。
M殻以降はこういった電子の配置をするために、本来ならば化学的に安定して金属としての性質がなくなるはずの電子数でも、電子を放出しやすいという金属らしさを残したままで存在する。よって金属の仲間は全元素中6割ほどもあるのである。


周期表の見方
周期表では、最外殻電子数の同じものが縦に並ぶため、化学的性質の似た元素が縦の列に並ぶ。この縦の列をという。各族は周期表上、左から右のに向かってTから[lと0という番号が付けられるが、この番号は、周期表が電子数の順で並んでいるので、原則として最外穀に増えていく電子数と同じようになっている。この最外殻の電子はM殻以降、いっばいになる前に次のN殻に電子が入るようになるので、[族の次でまた0族に戻る。そのため0族から[族までという分類方法は、各族AとBの2つに分かれる。同じ族に属する元素は同じ電子価のイオンになり、それぞれの族名は各族を代表する元素や、特徴で表すこともある。ここで各族のA、Bの違い(亜族)は無視して電荷と族番号との一致、化学的性質の類似を強調して8の周期を基本としたものを短周期表という。M殻において安定する18に満たないでN殻をもつようになる元素、つまり[族でまた0族に戻る周期を亜族に分けて表にしたものを長周期表という。なお亜族の表現は国や文献ごとに不統一であったので、1986年、国際純正応用化学連合(IUPAC)が族の分類を1〜18族に統一し、日本もこれにならった。

「族」は似たものどうしの集まり
長周期表において特徴的なを紹介してみると、最外穀電子が1個のアルカリ金属という仲間は、1価の陽イオンを作りやすいのでほかの元素と化合しやすく、天然では単体としては存在しない。また、軟らかく、軽く、融点と沸点が低く、単体は銀白色で、これらは空気中に放置すると湿気ですぐに皮膜ができるという共通の性質をもつ。
アルカリ土類金属という仲間は、アルカリ金属(希)土類金属の中間的な性質をもつのでこの名が付けられた。これらはU族という。2価の陽イオンを作りやすいのでアルカリ金属に次いで活性が高い。空気中ではアルカリ金属同様に皮膜を作る。(単体は銀白色から灰白色。)
希土類元素という仲間は、比較的まれな鉱物から分離する元素であったのでこのような名が付けられたが、地球上での実際の存在量はそれほど少なくないことが分かっている。イオンは3価の陽イオン。希土類元素のイオン半径(電荷をもったイオンを球と見なしたときの半径)は、原子番号が増加していってもそれほど大きくならないので、各元素のイオン半径が似たようなものになっている。そのようなことから、性質もよく似ているのである。内側の殻が定数に満たないで外側に埋まっていくので、外側から引き締める力が働くためである。また、鉱物中ではいっしょに含まれていることが多い。この仲間は単体では銀白色から灰色、アルカリ土類金属に次いで活性が高い。

金属結合と自由電子
金属原子が集まって金属結晶を作った場合、原子が、最外殻の電子を放出して安定しようとする動きと、電荷的に等価で釣り合おうとする動きを交互に繰り返すようになる。
つまり、隣の原子とこの電子のやりとりを行い、電子を共有することで結合力を出す。これを金属結合という。
電子はすべて同じであるから、共有される電子はどこの電子でもいいわけで、多くの電子が金属結晶の中をあちこち動き回るようになる。この電子を自由電子と呼ぶ。
自由電子は、金属結晶内を自由に動き回ることができ、この電子の動きが金属の性質を決めているのである。例えば、金属が固体の状態を保ちやすいのは、この電子の働きで原子どうしが強く結びつき、気体や液体のように原子(分子)が自由に動けなくなるためである。


金属の特徴と自由電子
金属は独特の光沢をもつが、これも自由電子の働きで説明できる。光が金属内に入り込もうとしても、自由電子によってはじき出されて奥には入れない。それで光を反射し、独特の光沢を出すのである。
ここで、赤い光を若干吸収してしまう傾向にあると、その金属は銀のように青白く見え、青い光を吸収する傾向にあると赤みを帯びるようになる。つまりなどがこれである。
また、電気が流れるのは電子の流れによるものであるが、金属は電子が自由に動き回っているので、その電子の流れを作り出すのはたやすい。
ところで、電気の流れるスピードは非常に速いように感じられるが、電子レベルでの動きは、1秒間にせいぜい数十cmほど。イメージ的に表現すると、金属の瑞に電子を押し込んで、自由電子をあふれさせて反対側に押し出しているようなものなのである。 熱伝導も同じで、金属のある部分に熱を加えるとその近くの自由電子のエネルギーが増えて、より活発に動き出す。それが運動エネルギーの形として熱を運搬することで全体に伝わっていくのである。
電気も熱も同じ自由電子の動きによって伝わる。つまり、熱をよく伝える金属は電気もよく通すことになる。ただ、温度が高くなると、原子がもつエネルギーが高くなって原子の振動が激しくなり、電子の動きを妨げてしまうので、電気抵抗が大きくなる。


金属の結晶と延性
ほとんどの金属は、
体心立方格子面心立方格子最密六方格子と呼ばれるいずれかの簡単な立体格子となり、それらがいくつもつながって金属結晶を作っている。自由電子はこれらの格子の中を、どの原子核にも属さずに動きまわる。
金属に外から力が加わった場合、加わった力が原子間の結合力よりも弱ければ当然のことながら壊れることはないが、加わった力のほうが大きいと、金属結合が一瞬崩れて横滑りを起こす。この横滑りの現象を実際に起こしているのは、格子にある、滑りを起こす面なのである(これを転位という)。
また、本来なら横滑りしたときにちぎれてしまいそうだが、自由電子のおかげで、動いた先でもまた同じ格子を作って金属結合ができる。よって金属は引き延ばされやすい性質をもっている。この性質を延性という。とくに、のように箔状に薄く延ばせる性質があるものを展性があるという。